第2章 ベートーヴェンの生涯




高崎の第九のホームページ
ニュース・トピックス
団員募集
練習会場
コンサートへ行こう
合唱団について
リンクと外部情報
高崎第九合唱団のあゆみ
指導者のあゆみ
イベントスケジュール
第九演奏会のあゆみ
メドレーのあゆみ
メイコンサートのあゆみ
海外公演の記録
チケットセンター
ベートーヴェンについて
ベートーヴェンの第九とは
たいむずのページ
携帯サイト

第10節 スランプ


第2章 ベートーヴェンの生涯

ブレンターノとの永遠の愛を心に誓いながらも、最後の結婚願望の夢も潰れ、人生上の大きな転換期を迎えるベートーヴェンも既に42歳になっていた。生涯机の引き出しの奥深くにしまい込まれていた未投函の〈不滅の恋人〉への手紙に返事があったであろうはずがない。1802年の弟たちに宛てた〈ハイリゲンシュタットの遺書〉の時と同様に、ベートーヴェンはここでも自ら恋人の返事を最も厳しい言葉で下したに違いない。しかしいかに強い精神力の持ち主であった彼にしても、この試練はかなり大きな衝撃となったのではないだろうか。1813年から4年間はスランプ期と呼んでも過言でないほど寡作期となった。もちろん、その原因を失恋だけに求めるのは短絡に過ぎるし正しくもない。恐らく音楽創作上の深刻な問題に直面していたのではないだろうか。もちろん、日常的な雑事や弟カールの家庭に次々と起こる不幸な状況も彼の創作の筆を鈍らせる要因の一つだったに違いない。

1813年になって、弟カールの胸の病気が急速に悪化したことも、今や3人の家族(弟たちの連れ合いには信じられないほど冷淡であった)となり、少年期から家長的自覚を持っていたベートーヴェンはカールが心配でならなかった。また、遺言状まで認めて死を覚悟していたカール一家の経済的援助にも心を掛けなければならなかったのである。不運なことは重なるもので、この時期のウィーンの経済状態はひどいインフレ状態にあり、さらに悪いことに、終身年金をもらっていたキンスキー侯が落馬事故で急死したり、ロプコヴィッツ侯が劇場運営の失敗で破産したりで、年金受給もままならなかったのである。夏になっても例年のように避暑に出かけることもできず、年金受給交渉で駆け回らなければならなかった。それでも夏の後半を短期間ではあるが、弟カールの病状が一時的に回復していたこともあり、ピアノ制作家のシュトライヒャー一家と共にバーデンで過ごしている。そしてバーデンから戻ると、ルドルフ大公から年金の半額を受け取り当座の生活をやっとしのぐ状態であった。

この頃ベートーヴェンは、メトロノームの発明者(真実は改良者)として知られる機械技師のJ.N.メルツェルとの親交が深まっていて、彼の発明したパンハルモニコンという自動演奏装置のための作品を考えていた。本格的な作品のスランプは続いていたが、依頼作品や機械音楽の注文に応じないわけではなかったのである。また、メルツェルはしたたかな商売人でもあり、ベートーヴェンと組んでイギリス演奏旅行をして一旗挙げようと考えていたのである。折しもスペインのヴィットリアでウェリントン将軍率いるイギリス軍がフランス軍を打ち破ったというニュースがウィーンにもたらされ、商魂にたけたメルツェルは、この『ヴィットリアの戦い』をテーマにしたパンハルモニコン用の作品をベートーヴェンに持ちかけた。つまり、この曲を手土産にイギリスに渡ろうというのだ。ベートーヴェンもこの話には乗り気となり、急いで作曲に取りかかり、まずオーケストラ用のスコアを完成させたのである。

1813年12月8日にウィーン大学大講堂で交響曲第7番と『ヴィットリアの戦い(戦争交響曲)』が初演され、予想外の大成功を収めた。これに気を良くしたベートーヴェンは『ウィーン新聞』にまで広告を載せて相次いで演奏会を開いた。年明け早々の1814年1月2日のレドゥーテンザールでの演奏会も、1月9日付けの『ウィーン新聞』が報じたように「拍手は満場にあふれ、聴衆の陶酔は極限に達する」ほどの成功を収めたのである。さらに2月27日にも同会場で前述の2曲に加えて交響曲第8番も演奏され、ベートーヴェンにかなりの収入をもたらした。

こうしたベートーヴェン人気を見てウィーンの各劇場管理者や音楽監督たちは、『フィデリオ』の再上演を打診してきた。今ならば必ず大成功するという助言を得て、ベートーヴェンは台本を全面改訂し、最終決定稿(第3稿)の『フィデリオ』が完成され、5月23日にケルントナートーア劇場での演奏会は、第1稿の失敗から10年を経て初めて大きな成功を得たのである。ともあれ、ナポレオンを讃えることで作曲が開始された中期の歩みは、その敗北をもたらしたイギリスの将軍を讃える音楽をもって閉じられたのである。ベートーヴェンはこののち、大規模な管弦楽の作曲からしばらく遠ざかることになる。

もどる      すすむ